日本では、これまで20歳以上で成人としてきたところ、2010年代以降、引き下げる方向で動いてきました。
選挙権の年齢や、民法における成年年齢が20歳から18歳に引き下げられているのはご存じのことだと思います。
そこには、社会において、責任ある主体として積極的に役割を果たしてほしいといった期待も込められています。
それにともない少年法も改正が行われます。
令和3年5月21日に少年法の一部改正する法律が成立しました。
そして令和4年4月1日から施行されます。
では具体的に何がこれまでと変わったのでしょうか。
大きく3つのポイントがあります。
それは、
〇少年法の適用と特定少年という枠組み
〇原則逆送対象事件の拡大
〇実名報道の解禁
です。
罪を犯した少年の処分について
少年事件については、少年法によって全件送致主義がとられています。
つまり、少年で犯罪をした人については、すべて家庭裁判所にその事件が送致され、処分を受けることになります。
厳密にいえばすべてではないのですが、そういう仕組みと思っていてください。
家庭裁判所に送られた事件はいくつかの決定を受けます。
〇不処分(処分しないという決定)
〇一時帰宅(審判はまだだけどいったん家に帰る)
〇保護観察(家に帰るけど保護観察所の指導を受ける)
〇観護措置(少年鑑別所に入所する)
さらに観護措置で少年鑑別所に入所すると、おおよそ4週間以内に再び家庭裁判所に呼ばれて審判を受けることになります。
そして、
〇保護観察
〇試験観察(家や特定の施設で過ごしながら後日審判を行う)
〇少年院送致(少年院に入所する)
〇検察官送致(いわゆる逆送、大人と同じ裁判を受ける)
〇不処分
のいずれかの決定を受けます。
これまでは、少年鑑別所に入っても、その多くは保護観察か少年院送致でした。
逆送の割合はかなり少なかったんですね。
しかし、令和4年から施行される改正でそのあたりに変化がありそうです。
少年法の適用範囲と特定少年
成人年齢が18歳以上となったことで、少年法の適用も18歳未満だけ……という議論もありました。
でも結局、若年者はこれまでの少年法の理念に乗っ取って、保護処分を受けることができる道を残すことになりました。
そこで、18歳19歳については、「特定少年」として、引き続き少年法が適用されることになります。
ほかの部分で成人であるとみなされても、犯罪行為についてはこれまでと同じように、全件が家庭裁判所に送られ、家庭裁判所が処分を決定することになります。
原則逆送対象事件の拡大
原則逆送という言葉を聞いたことがありますか?
これは、少年事件であっても、特定の重大な犯罪については、少年院送致などの保護処分ではなく、原則、大人と同じ扱いをする検察官送致にしましょうというルールです。
この原則逆送の対象となるのは、
故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件
を指します。
これは、1997年に少年が起こした「神戸児童連続殺傷事件」を受け,平成12年の少年法改正により新設された規定です。
ではどの犯罪が該当していたのかというと、殺人罪、傷害致死罪、強盗致死罪、強盗殺人罪などでした。
今回の法改正によって、この原則逆送対象事件が拡大することになります。
法務省のホームページによると、
18歳以上の少年(特定少年)のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件が追加されます。
とあります。
これだけだとなんの事件かわかりにくいですよね。
これに該当するのは、現住建造物等放火罪、強盗罪、強制性交等罪、組織的詐欺罪などが考えられます。
これまでよりも、18歳19歳の少年についてはより厳しい判断がされるようになったということですね。
実名報道の解禁
一番影響というか、是非が問われるのはこれではないでしょうか。
それは、実名報道の解禁です!
これまではどんなに残虐な事件を起こしたり、実際に検察官送致になって、懲役刑を受けることになったとしても、実名報道はされませんでした。
それは、まだ将来のある若者が実名報道された場合、そこから社会復帰するのが難しくなるのではないのかという配慮がその理由の一つでした。
しかし、今回の改正によって18歳19歳の少年であっても実名と写真の報道が可能となります。
といっても、すべての18歳19歳が実名報道できるようになるわけではありません。
18歳以上の少年(特定少年)のときに犯した事件について起訴された場合、この実名報道の禁止が解除されることになります。
ですので、特定少年であっても、少年院送致や保護観察といった保護処分を受けた少年であればこれまでどおり実名報道は禁止となります。
それでも、実名報道が解禁されるというのはかなり驚きの法改正となっています。
実際にどの程度変化があるのか
さて、これらの法改正によってどの程度、現場サイドに変化があるのでしょうか。
犯罪白書や少年白書といった統計をまとめたものを見ていくとわかりますが、逆送されるような事件というのは、年間通してもあまりありませんでした。
上記したように、これまでは原則逆送となる事件は、殺人罪、傷害致死罪、強盗致死罪、強盗殺人罪などといっためずらしい犯罪だったからです。
しかし、今回の法改正で、現住建造物等放火罪、強盗罪、強制性交等罪、組織的詐欺罪などが該当するようになります。
放火というのは件数が少ないですが、強盗罪と強制性交等罪は一定の件数、毎年発生しています。
そして組織的詐欺罪は、ここ数年の間にその数をものすごい勢いで伸ばしています。
少年鑑別所に入所する少年の犯罪を見てみても、昔から窃盗や傷害でその半分程度を占め、詐欺については無銭飲食やチケット詐欺のようなものがちらほらある程度。
しかし、今はオレオレ詐欺などの特殊詐欺が増えています。
県によっては、窃盗、傷害についでこうした詐欺の件数が多いことも。
少年の場合、その大半がいわゆる受け子といわれる役割です。
受け子でも逆送という判断をするのか、それともまとめ役レベルから逆送とするのか。
家庭裁判所の判断によっては相当な特定少年が逆送となる可能性も出てくるわけですね。
おわりに
少年法に関する動きは、2000年代から活発になり、ついには逆送の範囲拡大、実名報道の解禁と、昔では考えられなかった動きが増えてきています。
家庭裁判所や少年鑑別所といった少年非行に携わる機関は、これらの変化に合わせて対応を考えていかないといけないですね。
実際に運用する段階になれば、なにかしらの問題も発生すると思うので、今後も少年非行全般の動きを注視していきたいと思います。