小説

閉鎖された空間で怒る殺人ゲームー米澤穂信『インシテミル』

とある島の館。

とある山荘。

そこで起きるのは連続殺人事件。

 

ミステリー小説を読んでいると、こういった構成の本をたくさん見ます。

どれも味があっておもしろいのですが、この本は一風変わっていてとても好きです。

 

今回紹介するのは、米澤穂信さんの、

『インシテミル』です!

私の一番好きな作家の本になります。

いわゆる、クローズドサークルと言われる、脱出不可能な閉ざされた場所での殺人事件を扱った小説です。

夜のシーンの描写が非常にうまくてぞくぞくします。

 

『インシテミル』のあらすじ

大学生の結城理久彦はお金がほしかった。

車を買うためである。

 

車がなければ女にモテない。

女にモテないと学生生活が寂しい。

そんな理由からバイトを探していた。

 

ある日、コンビニで奇妙な求人情報を見つける。

”年齢性別不問。一週間の短期バイト。ある人文科学実験の被験者。一日あたりの拘束時間は二十四時間。人権に配慮した上で、二十四時間の観察を行う。期間は七日間。食事は三食提供。個室の用意あり。ただし、実験の純粋性を保つため、外部からは隔離する。拘束時間には全て自給を払う”

 

そしてその求人の時給が11万2千円であった。

結城は間違いではないかとも思ったがもし本当だったらと思い応募をする。

 

実験には、結城を含めて12名が参加をしていた。

『暗鬼館』に集まった年齢も性別もばらばらな12名。

実験は、より多くの報酬をめぐって参加者同士が殺しあう殺人ゲームであった。

 

おびえる参加者の中、そのうちの一人が声を上げる。

「殺し合う必要はない。七日間何もせずに過ごせばいい。それだけで全員1800万円近い金がもらえるんだ」と。

しかし、翌日、参加者の一人が銃殺された姿で発見される。

犯人はいったい誰なのか。

他の参加者への不信が募る中、第二の事件が起きる。

 

『インシテミル』の特徴

クローズドサークルである『暗鬼館』

実験場となる『暗鬼館』は地下空間となります。

空間の中央にラウンジ、レストルーム、キッチン、ダイニングの4部屋。

その周囲をぐるっと取り囲むように、12部屋の個室と、霊安室、娯楽室、監獄、守衛整備室、金庫の5部屋が存在します。

 

外界との連絡手段は一切なく、実験が終わるのは、7日目を迎えるか、生存者が2名になるか、抜け道を使って脱出をするかしか方法がありません。

 

ラウンジには、12体のネイティブアメリカン人形が並べられていて、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせ、これから起きる殺人ゲームの予告のような役割をしています。

 

参加者に渡される凶器

『暗鬼館』で行われる殺人ゲームの参加者には一人にひとつ凶器が渡されます。

そしてお互いに誰が何を所持しているのかはわかりません。

 

結城が渡されたものは火かき棒。

一緒についていたメモには、【殴殺】の文字が。

 

結城の渡された【殴殺】の火かき棒の次に判明するのが、【毒殺】のニトロベンゼン。

こうしたように、【〇殺】と書かれたメモがあり、殺害の方法が違った12種類の凶器がそれぞれに渡されることになります。

誰がどのような凶器を持っているのかを想像するのもおもしろいです。

凶器と一緒にあるメモには、その凶器の意味と、原典となる小説の名前が書かれています。

読んだことのない小説もあったのでこちらも興味深いです。

凶器の原典となった小説たち

凶器の原典となった小説については、『インシテミル』の中で10作その名前が出てきます。

結城の持つ火かき棒の原典は、『まだらの紐』

アーサー・コナン・ドイルの書いた有名な作品です。

シャーロックホームズの冒険の一つになります。

 

それ以外の原典として描かれているものは、

『緑のカプセルの謎』ディクスン・カー

『第三の銃弾』カーター・ディクスン

『Yの悲劇』エラリー・クイーン

『二つの微笑を持つ女』モーリス・ルブラン

『僧正殺人事件』ヴァン・ダイン

『犬神家の一族』横溝正史

『Xの悲劇』エラリー・クイーン

『白髪鬼』江戸川乱歩

『隅の老人の事件簿』バロネス・オルツィ

となります。

 

またこれ以外に、

『絶妙のショット』E.C.ベントリー

『茶の葉』E・ジェプスン、R・ユーステス

もおそらく原典となっています。

 

というのも、『インシテミル』の中のセリフから、凶器の原典のひとつがベントリーのものであることがわかります。

ただ原典の名前は出ていないんですね。

その凶器の内容からベントリーの『絶妙のショット』が原典の一つであることが推察されます。

 

また、『茶の葉』についても、少し特殊な凶器が出てくるため、こちらは作者も原典も小説の中に出てきていませんが、その凶器から『茶の葉』を原典としたのだと思います。

 

みなさんはいくつ知っていたでしょうか。

私は半分くらいしか知らず……。

この機会に海外ミステリーにも手を伸ばしてみようと思います。

 

カーの『緑のカプセルの謎』や、江戸川乱歩の『白髪鬼』は読んだことがあります。

昔の小説ですが、こうして名前が出てくるだけあって名作だと思います。

 

 

結城の恩師たちの言葉

小説の中で、結城の恩師からの教えというのが出てきます。

阿藤先生、伊藤先生、宇藤先生、江藤先生、尾藤先生、加藤先生。

こういうちょっとふざけたところも好きですね。

阿藤先生「うまい話にゃ裏がある。裏を取るまで乗るんじゃない」

 

伊藤先生「虎穴に入らずんば虎子を得ず。案ずるより産むが易し。人生体当たりだ」

 

宇藤先生 彼は何も言わなかった。

 

江藤先生「正体がつかめないものこそが、もっとも恐ろしい。君たちの人生はしばしば、得体の知れない危機が横たわる。警戒せよ。積むは難く、崩すは易し」

 

尾藤先生「何がなんだかわからないものは、何がなんなのかわかるまで放っておいても、どうってこたあない。説明書きの付いてないものにいちいちかかずらわるほど、お前らの人生は長くない」

 

加藤先生「給食は残さず食べなさい」

 

『インシテミル』の映画

『インシテミル』は、2010年に映画になっています!

これが出演者が豪華!

〇結城理久彦ー藤原竜也

〇須和名祥子ー綾瀬はるか

〇関水美夜ー石原さとみ

〇大迫雄大ー阿部力

〇橘若菜ー平山あや

〇西野宗広ー石井正則

〇真木雪人ー大野拓朗

〇岩井荘助ー武田真治

〇渕佐和子ー片平なぎさ

〇安東吉也ー北大路欣也

となっています。

原作に比べると、実験への参加者が2名少なくなっていて、年齢なんかもちょっとずれているのかなと思います。

原作から抜けたのは、釜瀬と箱島。

二人ともいいキャラなんですがいなくて残念です。

また凶器も一部原作とは違いました。

 

それにしても藤原竜也さんが役にはまりまくっています!

この人はどうしてこう、悩んだり苦悩したり追い詰められたりする役がこんなに上手なんでしょうか。

『カイジ』やデスノートの『八神ライト』もすごく似合っていましたね。

原作だけでまだ映画を見てない人はぜひ見てみてください。

 

終わりに

自分がこんな求人を見つけてもまず応募することはないですね。

だからこそ小説として楽しく読めるのかもしれません。

 

『暗鬼館』という名前がまたいやらしい。

疑心暗鬼に陥ったときに人間はどういう選択肢を取るようになるのか。

凄く人の心理をきれいに描いていると感じます。

それまでの『氷菓』『さよなら妖精』『ボトルネック』といった作品とは違い、一般的にイメージするミステリー小説となっており、読み応えがあります。

 

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