小説

「価値ある嘘というものも、あるいは存在するのかもしれない」東野圭吾の『卒業』に学ぶ

大学の卒業を控えた4年生。

就職活動、最後の部活動、卒業前の友人たちとの時間。

いろんな出来事があってとても濃い1年間になります。

 

今回紹介するのは、東野圭吾さんの、

『卒業』です!

 

東野圭吾さんの<加賀恭一郎>シリーズの第一作目となります。

 

『卒業』のあらすじ

卒業を控えた大学4年の秋、下宿先で一人の女子大生が亡くなった。

彼女は牧村祥子。

左手首創傷による出血多量が死因であった。

部屋には鍵がかけられて密室となっていたことから自殺と判断される。

 

親友であった相原沙都子は、自殺の原因が思いつかず、金井波香とともに、祥子の自殺の原因を残された日記から探ろうとする。

 

一方で、事件関係者からの供述からは、自殺と断定できない不可思議な内容が認められた。

加賀恭一郎は、他殺の可能性もあるとして、事件の真相を探るべく行動を起こす。

そんな中、二つ目の事件が起き、加賀の友人たちの中の一人が毒物によって亡くなる。

 

二つの事件にはなにか関係があるのか。

加賀は真相にたどり着くことができるのか。

 

<加賀恭一郎>シリーズを読むなら『卒業』から

先にも述べたように、『卒業』は<加賀恭一郎>シリーズの第一作目となります。

現在、10作品が出版されており、どれから読んでも楽しめるのですが、時系列で読んでいった方が、一つ一つの作品に深みが出ます。

 

<加賀恭一郎>シリーズの後半では、お亡くなりになっている加賀の父親もこのときはまだご存命で、小説の中に登場します。

加賀と父親の関係がいったいどういうものであったのかは、こちらを読んでからでないとイメージがしづらいです。

 

また、『卒業』のときの加賀はまだまだ若い!

大学生だから当然なんですけどね。

刑事になってからの加賀の鋭さはこのときにもすでにその片鱗が見えていますが、経験を積んでからの加賀に比べると、どこかゆるい部分があります。

『卒業』と『祈りの幕が下りる時』の加賀ではまるで別人のようですね。

 

順番に読んでいくことで加賀がどのように成長していったのかもわかっておもしろいです。

 

親友だったらなんでも話せるのか

少し小説の主要な部分からは外れますが、『卒業』を読んで感じたこと。

 

祥子の事件が起こったあと、沙都子は、

「親友なのに何も知らなかった」

と自分を責めます。

「何かあれば絶対に自分には話してくれる!」

だからこそ、祥子は自殺ではないのではないのかと考えるようになります。

 

でも、これってなかなか難しい。

小説の中には、

「秘密だから親友にも話せない」

と言った人もいます。

 

現実に、私が何か人に言えないようなことを抱えた場合、誰かに話すだろうか。

そう考えると、きっと今でも、大学生のときでも話さないことはあるのだろうなと思います。

でもだからといって、その相手が親友でないというわけでもない。

それはそれ、これはこれといった感じでしょうか。

 

『卒業』の中でも、加賀のセリフに、

”真実にはそれほどの価値はないのかもしれない。価値ある嘘というものも、あるいは存在するのかもしれない”

(東野圭吾『卒業』より)

というものがあります。

本当のことが正しいわけではない。

嘘をつくことで守れるもの、大切にできるものもあるのかなと感じます。

 

まあもちろん、嘘を推奨するわけではないんですが。

終わりに

『卒業』は、事件の真相が解き明かされ、それぞれが卒業して、自分の道を歩み始めるところで終わります。

この卒業という言葉には、単純な大学を卒業する以外のものがたくさん込められているのだと思われます。

それまでの自分と卒業をして、どういう人生を選んでいくのか。

その先まで見てみたくなる終わり方でした。

 

次作『眠りの森』では、社会人になって活躍する加賀の姿を見ることができます。

そちらも楽しんでもらえたらと思います。